海の光が、みかん山の葉の間に見える。愛媛の瀬良農園で柑橘を育てる瀬良 正雄さんは六十代。収穫かごを置くと、山の下の道と、上の段に残る木を見比べた。長く続けてきた畑でいま探しているのは、仕事をそのまま引き受ける誰かではない。この土地の果物を、自分の暮らしの中で育てていける次の人だ。

海の見える段々畑を、ゆっくり登る

朝の山では、風の向きや足元の状態を確かめることから一日が始まる。斜面の畑は、平らな場所と同じようには動けない。道具を運ぶ順番、かごを置く場所、摘んだ果実を下へ運ぶ段取り。その一つずつに、体を無理なく使うための工夫がある。正雄さんは急いで先へ進むより、途中で木を見ながら、自分の歩調で畑を回る。

収穫の時期には、かごを持つ時間が長くなる。午後は選別と箱づくり、送り先の確認を進める。山を下りても、仕事は果実と一緒に続いていく。「摘むことはよく見える仕事でしょう。でも、どこへどう送るかを考える時間も同じくらい大事です」。夕方には、翌日の作業に必要なものをそろえる。長く畑にいるからこそ、体の疲れを翌日に持ち越さない段取りを考えるようになったという。

みかんを育てる理由は、季節と暮らすこと

この山を歩く生活を、正雄さんは特別なものとして語らない。木を見て、季節が進み、実を待つ。それが暮らしの形になっている。ただ、自然が相手だから気楽というわけではない。思うように育たない年も、予定が変わる日もある。長く続ける中で、思いどおりにするより、変化を見逃さないことを大事にしてきた。

「同じ場所でも、今年の木は今年の木なんです」。柑橘という大きな括りの中にも、品種や収穫時期、味わいの違いがある。温州みかんの季節には、実の状態を確かめながら収穫を進める。産地や品種によって食べごろの時期は異なり、すべての柑橘を同じように説明できるわけではない。その違いを、食べる人が面白がってくれると、育てる仕事にも新しい張り合いが生まれる。

山の光と風に、木の形を合わせる

架空の農園の風景

枝の間に海が見える木も、山側に葉を広げる木もある。正雄さんは、それぞれが受ける光や風を考えながら木を整える。畑を一つの面として見るだけでなく、段ごとの違いを見る。足元を管理する仕事も、斜面で安全に動くための仕事とつながっている。果実のことだけを考えて、道の手入れを後回しにはできない。

「どこを残すかは、木を見ながら話したほうが伝わるんです」。経験を言葉にしようとすると、普段は意識せずに決めていたことが多いと気づく。剪定の理由、果実を確かめる場所、雨のあとに気を配る道。次の人へ渡したいことは、育て方の手順だけではない。なぜそこで立ち止まるのかを、畑で一緒に見ながら伝えたいと考えている。

出荷と直販、どちらも続けるために

販売は、これまでの出荷先との関係と、直接買ってくれる人への発送を組み合わせている。卸と直販には、それぞれの役割がある。まとまった出荷を支える相手も、味を気に入って毎年連絡をくれる人も、この畑を続けるつながりだ。正雄さんは、直販だけに切り替えれば楽になるとは考えていない。送り先を確認し、箱の内容を決め、届く時期を案内する細かな仕事があるからだ。

ECは扱い方を相談しているところで、注文の窓口を新しく設ける前に、いまの連絡の流れを整理したいという。電話で受けた話を紙に残すこともあり、あとで発送の予定と照らし合わせる。一番手間がかかるのは、連絡の内容を別の場所へ書き直すことだ。「仕組みが増えても、同じことを何度も書くなら、続かないでしょう」。便利さは、使う人の一日から考える必要がある。

リピーターとの関係は、味の記憶に支えられている。昨年の箱の話をしてくれる人もいるが、全員へ季節の案内を届ける方法はまだ整っていない。ラインには関心があっても、個別の質問へすぐ対応できるかは別の問題だ。交流サイトも、撮影や投稿を毎日続けるには負担がある。山の様子を伝えたい気持ちと、作業を優先する時間の間で、無理のない形を探している。果物狩りは行っておらず、見学の受け入れには、斜面の安全と日程の調整を先に考える必要がある。

天気の変化と、体を使い続ける難しさ

雨が続いたあとの畑では、実だけでなく道も確認する。強い風への備え、暑い日の作業時間の調整。天候が変わると、育てる判断と、自分の体を守る判断が重なる。長く同じ山で仕事をしていても、慣れだけでは越えられない日がある。正雄さんは、できる仕事と手助けが必要な仕事を分けることを、これからの農園に欠かせない準備だと考える。

後継者を探しているが、畑を好きになってくれるだけでいいとは言わない。「暮らしていけるかどうかも、一緒に考えないといけません」。作業の技術に加えて、販売や連絡、道具の管理をどう分担するか。すぐにすべてを渡すのではなく、季節を通して山の仕事を見てもらいたい。家族だけに担い手を求めず、別の場所から関心を持った人にも、現場を知る入口をつくりたいという。

初めて山に来る人には、海の見える景色を楽しむ時間も持ってほしいという。仕事を知ることと、この場所を好きになることは、どちらも続ける力になる。正雄さん自身も、作業の合間に顔を上げると、その日の光が昨日と違うことに気づく。長く見慣れた海にも、まだ新しく見える瞬間がある。

次の人が、自分の言葉で山を語る未来

育てている果物

正雄さんが残したいのは、自分のやり方を変えずに守る農園ではない。次の人が、ここで何を育て、どう届けたいかを考えられる場所だ。そのためには、いまの仕事を言葉や記録で渡すことと、変えてよい部分を話すことの両方が必要になる。FruitsGalleryのような場所で、果物の味だけでなく働く日々を伝えられたら、山に関わる人との出会いにつながるかもしれない。

「できることも、困っていることも、先に話しておきたいんです」。おすすめの食べ方は、まず手でむいて、そのまま。温州みかんの香りと、房ごとの味をゆっくり楽しんでほしい。箱で届いたら、中を確認して、傷みのあるものがほかに触れないようにする。保存は風通しのよい涼しい場所を目安に、状態を見て早めに食べる。海から風が届く山で、正雄さんはかごを持ち直した。次の人に見てもらいたい景色は、完成した農園の写真だけではない。木を見て判断し、人に届け、また山へ戻る。その暮らしの続きにある。

この人の農園と、果物へ。

架空の農園の風景

瀬良農園 / 愛媛県 / 柑橘

この農園は架空の掲載イメージです。訪問・購入・応募は受け付けていません。

農園・施設を探す果物を知る

※この記事は掲載イメージのためのサンプルです。